思わず好きになる…!? 映画『建築と時間と妹島和世』で、建築が生み出されるプロセスに立ち会う。
有名建築家と聞くと、どんな人物を思い描くだろうか。斬新な建築にこだわるあまり、クライアントの要求を置き去りにし、工事担当者に無理を押し付けて、自らの設計を強引にまで実現しようとする。そんなエゴイスティックな表現者のイメージを抱いていたとしたら、この映画を見て拍子抜けするかもしれない。
主役となる建築家は妹島和世だ。日立駅(竣工2011年)やすみだ北斎美術館(2016年)を手掛けたほか、西沢立衛との共同事務所SANAAでは、金沢21世紀美術館(2004年)やルーブル美術館ランス別館(2012年)などを設計。建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞するなど、国際的な評価も高い。近年では、西武鉄道の001系電車「Laview」のデザインも担当して話題となった。
映画の監督・撮影を務めたのは写真家のホンマタカシで、以前から妹島の建築作品を撮っていたが、今回は大阪芸術大学アートサイエンス学科新校舎の設計段階から建物完成後のワークショップまで、3年半にわたる建築家のかかわりを追っている。
インタビューからわかるのは、建築家が設計案を何度もつくり直し、膨大な数のバリエーションを検討しているということ。設計変更の理由は、機能上の要求もあればコストダウンを図るための場合もある。いずれにせよ、押し付けるというよりも押され続けている印象だ。設計の検討は工事が始まっても続き、ヘルメットをかぶって現場を歩きながら、案を変えようかどうしようかと悩んでいる。
とはいえ、そこからでき上がってくる大阪芸術大学アートサイエンス学科の建物は、実に大胆なデザインで、雲のような不定形の床板が重なった格好をしている。模型で見たときには、なぜこの形になるのか、理解できなかったのだが、完成後の映像では、確かにこの敷地環境に合っているように感じられた。外の光と木々の緑が天井や床に反射しながら入ってくる屋内の情景や、雨の日に水が流れて落ちる様子も素敵だ。
生み出されるプロセスに立ち会って、その建築と設計した建築家を好きになる。そんな体験を味わった映画鑑賞だった。
『建築と時間と妹島和世』
監督/ホンマタカシ
出演/妹島和世
2020年 日本映画 1時間
10月3日(土)より、ユーロスペースほかにて公開。
kazuyosejima-movie.com